top of page
yasuhara5

CLRがもたらす社会へのインパクト

更新日:2023年11月14日

更新日:3月11日

2021年3月22日に開催されたIMS CLRラウンドテーブルのディスカッションをかいつまんで紹介してみたいと思います。

Aligning Credentials to Learning Outcomes --IMS CLR Roundtable (22 March 2021)


登壇者は、

—Nan Travers, Director of the Center for Leadership in Credential Learning, SUNY Empire State College

—Gianina Baker, Acting Director, National Institute for Learning Outcomes Assessment

—Larry Good, President and CEO, Corporation for a Skilled Workforce

—Holly Zanville, Research Professor and Co-Director of Program on Skills, Credentials and Workforce Policy in the Institute of Public Policy, George Washington University

 

 

CLRで何を実現したいのか


まず、CLRという技術標準について触れる前に、その背景となるインクリメンタル・クレデンシャルという考え方の全体像に触れています。SUNYのNan氏によると、そもそも学習に関わるクレデンシャルは非常に古い制度で、準学士、学士、修士、博士という4段階の構造としていまに至っています。そして古くある制度の中のクレデンシャルは、試験に合格して証書をもらう、学位を授与される、というように付与されたときの価値がそのまま残るのものとして捉えられてきました。


これに対して、CLRで実装しようとしている「インクリメンタル・クレデンシャル」とは、証書をもらった後どうするのか、自身のキャリアや学びをどう高めていくのか、という観点からクレデンシャルが「増加性(インクリメンタル)のもの」であると捉えようという転換をもたらします。クレデンシャルが増加性のものであるとして捉え、オープンバッジやデジタル化された成績証明書、職場での証書など、生涯にわたって個人が学びや能力が記録となり、認知されることを実現させようとする考え方です。




ジョージワシントン大学のHolly Zanville教授は、クレデンシャルを増加性のものとして捉えることは、「高等教育を一変させる大変重要なものだ」と発言し、その理由を三つ上げています。


学習者にとって公平性をもたらす

学校事務を効率化させる

採用企業に利便性をもたらす


この三つに加え、他国ではマイクロクレデンシャルやノンディグリーのクレデンシャルを国家資格枠組みの中に位置づけ、経済再生の方策として展開されていることに着目すべきだとしています。実際に、ニュージーランドやオーストラリアが資格枠組みとマイクロクレデンシャルとを連携させる取り組みを政策として推進しており、欧州でも進められようとしています。


CLRが学習者にとって公平性をもたらす、とは?


インクリメンタルクレデンシャルの実装が学習者にとっていかに公平性をもたらすのか、という点について少し補足したいと思います。Nan氏によると、アメリカで学位を保持する人は約半数にとどまります。一方で、学位を持たないひとも、その一定数が部分的にカレッジで学んだ経験をもっています。部分的にカレッジで学んだけれども、修了証書を取得する前にドロップアウトしてしまう場合、学習した部分を証明するクレデンシャルがありません。すると学習成果が対外的に見える化されず、学習者にとって機会損失になってしまうという問題を統計を参照しながら説明しています。人種毎に示された統計をみると、歴史的・構造的差別により学位取得の障壁が高いグループは特にその機会損失の影響を受けていると捉えることもできいます。



座談会では、Nanが指摘する統計的な格差に加え、パネリストたちがインクリメンタルクレデンシャルが実装されていないことで、家族の一員が学習成果を通してキャリアを築く上で直面した困難についてパーソナルなストーリーを添えています。


CLRは、正規教育に限らず、知識、スキル、コンピテンシーを示すことができるため、これまで書類として示されなかった学びを、記録化することができるようになります。こうしたことが、CLRがもたらす社会的インパクトなのだと、パネリスト達は期待を寄せています。


CLRは大学事務をどう変えるか


では、CLRでインクリメンタルクレデンシャルを実装することが、学校事務を効率化し、採用企業に利便性をもたらすとは、具体的にどのようなことでしょうか。


一般的に学校では、学位や成績証明書などの証明書を発行しています。学生はこれらの証明書をもって就職活動などで企業に提示します。労働市場において学位は価値があるものとして捉えられており、求人要件に学位を条件として明記していることも頻繁にあります。一方、学習から仕事へと移行する際、学位に比べて学成績証明書は意図した意味を持たないケースもしばしばあります。Holly氏は以前、有益な成績証明書の在り方を模索し、調査を行ったところ、採用企業にとって成績証明書に記された「社会学概論」や「西洋文明Ⅰ」といった科目名と成績は不可解で、どのような知識を身に着けて何ができるようになったのかわからない、もっと広義での学習記録が求められているのだと指摘、それを実装するのにCLRが有用であると強調しました。同様にCorporation for a Skilled WorkforceのLarry氏も、自身が携わる最近のプロジェクト、特にIT業界の採用企業にとって、学位よりも特定の学習のまとまりを示すものが有用であることを挙げています。


デジタルクレデンシャルを発行のための環境整備


オープンバッジ、CLRなどのクレデンシャルを大学が発行するには、環境整備も必要です。長い歴史の中で管理されてきた学位に対し、システムから発行できるデジタルクレデンシャルをどのように管理していくか、ガバナンスや原則、事務体制を整備しなければなりません。Nan氏はSUNYでのマイクロクレデンシャルの事例について言及。学位や州の認定を受けている修了証明(certificate)よりも粒度の小さいクレデンシャルに関しては、機関で一定のポリシーや原則を設けておき、それに則れけば、ガバナンス(修了判定会議のような教授会での審査)が無くても自由度を高く保って発行できるという仕組みで運用しているとのことです。


クレデンシャルの授与を自動化する!?


教育全体のデジタルトランスフォーメーションが進化し、修了証明などのクレデンシャルの発行にコンピテンシーの修得など明確な一定の条件を設定し、機関での発行ポリシーが整備されると、クレデンシャルの自動付与が可能になります。通常のクレデンシャル発行のプロセス、例えば学位であれば、学生は修了要件を満たしていても、学位申請を行わなければ学位は授与されません。審査が必要なものやターミナルディグリーである学位などは別として、粒度の小さいクレデンシャルについては、授与をシステムで自動化してしまう、というのもCLRがもたらし得る未来の一つであることがディスカッションでは触れられています。


産業界の認知と連携がカギ


デジタルクレデンシャルは、近年一層の普及が進んでいます。クレデンシャルエンジンとの調査によると、アメリカで発行されている一意のクレデンシャル(発行数ではなく種類)は2020年の時点で900,000以上もあるそうです。当該調査報告書を参照してみると、2019年に行われた前回の調査では、伝統的な高等教育機関が発行するクレデンシャルがその最もも大きな割合を締めていました。これに対し2020年の調査では、教育機関以外(民間オンラインコースの修了証やバッジなど)のクレデンシャルが増えていることがわかります。その背景には、コース修了証とデジタルバッジの増加が挙げられています。


クレデンシャルエンジンでは、クレデンシャルレジストリという仕組みや、Credential Transparency Description Language (CTDL) スキーマを通して、クレデンシャルそのものの現状をデータとして透明性を高め、学びとキャリアの関係性やニーズについて統計的に捉えていくことを進めています。



IMSグローバルコンソーシアムでも2020年のオープンバッジ発行数についてクレデンシャルエンジンと協働で行った調査のレポートが公開されており、その増加が見受けられます。IMSとしては産学連携のプロジェクトWellSpringが第2フェーズとなっており、そこでは大学と産業界とがパートナーを組み、いかに大学の教育と産業界の求めるコンピテンシーを連携させるか、実証実験が進められています。これは、学校や職場を問わず、あらゆる学びが認められるエコシステムを目指すもので、デジタルクレデンシャルの技術標準がそれを実現する手立てとなろうとしているのです。


 

All images from IMS CLR Roundtable, "Aligning Credentials to Learning Outcomes" (22 March 2021) on Youtube otherwise noted.



Comments


bottom of page